塔2024年3月号・作品2三井修選より

好きだった6首です。

 

鉛筆の芯は太くて柔らかい自分らしさってなんなんだろう/川端和夫、p88

「鉛筆の芯」から「自分らしさ」への問いに向いていますが、この距離感がほどよくて心地よいと思いました。

 

醒めるとは昂るおもいあったこと どうだんつつじの火列にふれる/浅井文人、p89

「どうだんつつじ」=「火列」ですが、火列は手元の辞書で調べてもなく、もしかすると漢語由来かもしれませんが、鮮烈な赤のツツジを想起できて好きな言葉でした。昂ったから醒めることもできるんだという上句も、ツツジに触れることで醒めた感情を整理しているような動的な下句もとても好きです。

 

遠まはりして帰りますあと千歩数つみたくて星がまたたく/今村美智子、p89

スマートフォンの万歩計アプリか何かを使っていて、あと千歩ほしいということでしょう。「遠まはり」したからこそ見えた綺麗な星なのかもしれませんし、もしくは歩数を積みたいだけなのでいつもより星に注目できたのかもしれません。そういう時に見た星だからこそ感じ入るものがあったのだと思いますし、結句で転換の形で置かれているのが、急な感じはしますが効いていると思いました。

 

ひとりでは棋譜は紡げない 向き合って並べる駒の冴え冴えひかる/紫野春、p92

棋戦(おそらくタイトル戦)に関する一連のなかの一首。敗者を詠んだ歌もありますが、この歌で表れている棋士への尊敬のまなざしが特に好きでした。対局開始前の景と迷いましたが、私は感想戦でのことだと読みました。てきぱきと駒を並べる(振り返っている)様の「冴え冴え」が効いていると思いました。

 

冬の風に負けない蝶もいるだろう恐らくそこに番はおらず/八木佐織、p95

一連を読むと決意の歌かと思います。番がいないから、厳しい冬も乗り越えられるということだと読みました。番がいると、厳しさからは逃げてしまったり、情もあって折れてしまうのかもしれません。家族について考えました。

 

煙草吸ひしことなけれども一服のポーズをとりて休憩とせむ/中野功一、p96

勤務中にタバコを吸うことは、(ベビースモーカーで吸うことに追われていなければ)休憩のための儀式っぽさもあると思います。ただ主体は吸ったことがないので、ポーズだけ取った。しみじみと共感できる景だと思います。ポーズを取ることには、何かをやり遂げたような、達成感のようなものも感じました。