塔2024年1月号・作品2小林信也選より

好きだった5首を挙げ、短く感想を記します。

 

見通しの甘い夢語りが背中越しから聞こえてくる夜行バス/豊冨瑞歩(p.132)

「見通しの甘い」という主体の判断が、「背中越し」→「夜行バス」と読み進めることでくっきりと説得力をもたせるところが好きでした。句跨りも主体の冷静さや冷めている感じを強めているかなと思いました。


ふるさとの歌詠みたれば幼な日のけしきの温みに迷うてしまふ/中橋睦美(p.133)

幼い頃の記憶の温かさと、今のふるさとの景とにギャップを感じたのだと読みました。現在だと厳しいことも目に入りますが、「郷愁」にはあまりネガティブなものが挟まれず、根底からポジティブな気がするのが発見でした。共感しました。


切り出すより大き力に分たれる 不治の病を医者より告げらる/神田靖子(p.135)

上句は下句のイメージを詠まれたのだと思いました。主体が能動的に(例えば命を)切り出すのではなく、大きな力によって強制的に分けられてしまうということを想起されたのだと読みました。衝撃を、冷静に詠まれたのも素敵だと思いました。


いつまでもいつまでもいつまでもいつまでもテレビのなかの戦争がある/宮本背水(p.139)

繰り返しが強烈で、惹かれました。下句が7・7で、上句の5・5・5・5もそのように読むことで、勢いよく諳んじられるなと思いました。戦争への距離感について主体がどう感じていると思われるのかは、丸山萌さんと森山緋紗さんの読みに頷かされ、勉強になりました。競馬と生活が最終的に絡んでくる一連全体が大好きでした。

 

四本の畝立て終ふや鍬はふり冷えゐる車に駆け込む猛暑/川島信(p.140)

「はふり」は「放り」と読みました。猛暑で、畑作業を終えると鍬を投げ捨てて冷房の効いた車に駆け込んだのだと思います。主体が猛暑そのものであることが強烈で感じ入るものがあり、「はふり」も相まって勢いを感じました。

 

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近藤由宇さん、丸山萌さん、森山緋紗さんと宮下一志の4人で分担して塔を読み、好きな歌を紹介する「塔を読む会」を開催しています。自分は基本的に不精で、時間の区切りがないと歌を詠まないし結社誌も読まないので、このような会を続けられていることがとてもありがたいです。

割り振られた欄を読んでいると会では紹介しきれないほど好きな歌があるので、会で引いた歌も含めて、短い感想とともに紹介してみることにしました。書けたものから順次アップする予定です。