塔2024年1月号・若葉集(なみの亜子選)より

好きだった歌を5首引きます。

 

パーティの隅でちいさくなっているコルクをふたつ並べてあげる/鈴木ベルキ(p.184)

歓談する時間帯だと、ぽつんとしてしまうこともあると思います。主体もそのような中で自身と重なるコルクを見つけたのではないかと読みました。「ちいさくなっているコルク」に気づいてあげられることがそのことを想起させ、さらに並べて「あげる」ところに優しさと繊細さを感じました。大好きな歌でした。

 

ちちははの手を振りほどき駆け出だす幼の腰に跳ぬる水筒/森田敦子(p.185)

主体は父母よりさらに後ろにいるのだと思います。幼い頃は水筒を肩からかけていたことも思い出して、感じ入るものがありました。映像的なのも素敵です。おさなごの背中を見る時に跳ねる水筒に目が止まるのも共感しました。

 

服薬はぼーっとしてる時が良しパカッと開く昏き咽頭/川上美須紀(p.186)

自分は錠剤を飲むのが苦手でよく喉につかえてしまうので、関心をもって読みました。「昏き咽頭」は主体の感覚だと思いますが、俯瞰的に見ている感じが好きでした。

 

独身という樹々でいて無為に見える日々は緑を美しくする/小川優(p.186)

とても気になった歌でした。下句の「緑を美しくする」は「樹々」にかかるのだと読みました。独身であることを「樹々」に例えたのは、一本いっぽんが独立していて離れているからかな、などといろいろと考えました。この次の歌も含めて好きでした。

 

僕の行く歩みはなんとなく帰路たよりなく過ぎる街灯がある/瀬崎薄明(p.188)

行きよりも、帰りの方がもの思いに耽りやすそうな印象などともこの歌はつながってくるのかな、などと考えました。主体は考えている→だからどちらかというと帰路に思えてくる、という感覚をさらりと詠んだのだと思います。街灯が「たよりなく過ぎる」のは、こうした感覚をうまく補強していると思いました。

 

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近藤由宇さん、丸山萌さん、森山緋紗さんと宮下一志の4人で分担して塔を読み、好きな歌を紹介する「塔を読む会」を開催しています。割り振られた欄を読んでいると会では紹介しきれないほど好きな歌があるので、会で引いた歌も含めて、短い感想とともに紹介しています。書けたものから順次挙げていく予定です。