塔2024年1月号・作品1山下洋選より

好きだった5首を引きます。

 

下戸なればたくさん食へばええやんか吾が思ひたり自分のために/永山凌平(p.86)

過去の飲み会で言われた印象的なことを、別の飲み会で反芻していると読みました。「たくさん食へばええやんか」が実際の言葉で、初句と下句が地の文かな、とは文体から推測でき、語りの挿入が印象的でした。カギカッコを入れた方がいいと指摘する意見も出てくるような気がしますが、入れない方が印象的で素敵だと思います。私も酒をほぼ飲まないので、感じ入る歌でした。

 

火は怖い赤にも青にもなるからとわたしよりきっと死に近き友/川上まなみ(p.90)

感受性が豊かで、それだけ受け止めてしまうものも大きいのかなと思います。下句が印象的で、共感しました。

 

この世になき鳥もあるかと見上げをりゆふぐれに凄き椋鳥の群れ/小林真代(p.91)

身近な景の中で、もしかしたら今見えているムクドリの中には既に死んでいるもの(霊とかでは括れないものかなあと思いました)もいるかもしれないという発想が素敵です。

 

待つ人の無き家なれば時しばしフロントガラスの雨に憩はむ/仙田篤子(p.92)

車を打つ雨音やガラス越しに見える雨滴って素敵ですよね。静かでもうるさくもないような気がします。二句までが少しさみしいからこそ、沁み渡るのかなと思いました。

 

血縁がずっと苦手だ欲しいのは絡まる前の結束バンド/落合優子(p.96)

血縁を絡まるものと捉えて、外から綺麗に束ねてくれる「結束バンド」がほしいということかと読みました。