塔2024年2月号・作品2永田淳選より

好きだった6首を引きます。

 

半分を金色にしたひとだらけひのでの見える海岸線は/星亜衣子(p.137)

 きっと実景なのかなあと。そう確信するくらい手触りがあり、過去の記憶に思いをはせました。読み手それぞれの朝焼けを想起させる、力のある歌だと思います。早朝の海岸沿いの美しさを綺麗に言語化されたことも素敵です。一連のどの歌も魅力的でした。

 

ご一緒に白日夢などみませんか薄目をあけて野良猫がいう/田島千代(p.138)

 昼寝している猫に対してそのように発想するのか、と感じ入るものがありました。「白日夢」が秘める非現実的でポジティブなイメージも含めて素敵です。

 

五章まで読みゆきたれば栞紐青くページに横たはりをり/いわこし(p.139)

昨日から物理法則変はり発射するものみな花になるといふ/いわこし(同上)

 一首目、私は小説を読むときにまず栞紐のあるページを開いて使ってしまうのですが、主体はそうせずに本を読み進め、栞紐のページに行き着いたと読みました。確かに本に収められた栞紐は折られて横たわっているようで、表現の的確さと、栞紐の青色に着眼する(きっと鮮やかな青だったのだと思いました)手触りのある感じがとても好きでした。

 二首目、おそらくガザを思って詠まれているのですが、出来事を憂う歌が塔誌に多く並ぶ中で、詩的に展開したところが好きです。ただ銃弾や砲弾が花になることと、「物理法則」が変わることの因果関係が気になりました。

 

筋力よりバランス力を失ふと気づいたときはもうこけてゐる/藤原學(p.143)

 発見があり、そうだと気づいたときにはこけてしまっているという下句のユーモアも好きでした。

 

交差点うつむく男で埋まりたり独りでいるのが下手なわれらか/八木佐織(p.144)

 共感しました。スマートフォンを見るか、単にうつむいて信号待ちの手持ち無沙汰を紛らわしているのだと思います。上句で「男」と限定したことには何か理由があるのかなと一瞬思ったのですが、実際に主体が見た景がそうだと読みました。「われら」で主体自身もその中にいる(のだろう)と俯瞰的に詠まれているのも好きでした。